Cognitive Disorders ・アルツハイマー病

アルツハイマー病（AD）は認知症の約60%を占め、病因としては、アミロイドβタンパク質（Aβ）の蓄積とp-tau（異常リン酸化したTAUタンパク）による神経原繊維変化、シナプスの異常変化を中心としたアミロイドカスケード仮説が注目されており、これに基づいた治療法の開発が盛んです。カスケードの一部であるp-tauが神経軸索内のミトコンドリアの機能障害を惹起する^（1）ことにより、細胞死を誘導する可能性も示唆されています。AD患者ではミトコンドリア機能の低下が認められ、ADモデルマウスにneural stem cells（NSCs）を移植することにより、ミトコンドリア機能と認知機能が改善したとの報告もあります^（2）。ミトコンドリア活性をTauを標的とした治療法のマーカーとして利用するのみならず、治療の標的とすることも考えられます^（3）。

補体とアルツハイマー（補体を介したアストロサイトとミクログリアのクロストーク）

脳では神経免疫担当細胞のミクログリアが活性化していることが知られています。Translocator protein（TSPO）低発現のミクログリアのみが貪食作用によって凝集したAβタンパク質を除去でき、TSPO高発現のミクログリアは炎症性サイトカインの分泌を増加させることが報告されています^（4）。また、補体依存性の細胞間クロストークが存在し、ニューロン性Aβの生産過剰がアストロサイトの nuclear factor kappa B (NF-κB)を活性化させ細胞外へのC3放出を起します^（5）。健常脳ではミクログリアと免疫関連タンパク質がシナプス回路の構築に関与し、その過程では補体C1qとC3がシナプスに局在し、ミクログリアによる貪食を介した不要シナプスの除去を司っています。一方、ADではAβオリゴマーによって補体を介したミクログリアの活性化が起こり、シナプス障害が起こりますが、C1qとC3を阻害することでミクログリアの貪食とシナプス障害が抑制されます^（6）。また、C3をノックアウトすることによりマウス脳内でAβの沈着促進が観察されたので、Aβのクリアランスに関与している可能性もあります^（7）。今後、補体C3レセプターの阻害剤がAD治療薬となるかもしれません。
体細胞では補体はToll Like Receptorとのクロストークが示唆され、細菌のLPS等により直接活性化されると考えられています。ヘルペスウイルス、クラミジア、歯周病の原因菌とされるPorphyromonas gingivalis（P.gingivalis）への感染とAD発症の関連が示唆されており、例えば、AD患者の脳からはP.gingivalisのLPSが検出され、これを中年マウスに慢性投与することによりミクログリアを介した脳炎症が誘引されAβの蓄積が起こり、AD様の病態が発生したとの報告もあります^（8）。

アルツハイマーの病因にはまだ不明点が多く、現在のところアミロイドカスケードをターゲットにした治療法が主流ですが「脳炎症・感染症仮説」も視野に入れた病因の解明、バイオマーカーの探求、創薬も重要になると考えられます。

文献紹介

1. Shahpasand K et al. J Neurosci Off J Soc Neurosci. 2012;32(7):2430-41.
2. Zhang W et al. Neurobiol Aging. 2015;36(3):1282-92.
3. Onyango IG. Neural Regen Res. 2018;13(1):19-25.
4. Higuchi M et al. Rinsho Shinkeigaku. 2011;51(11):1031-1031.
5. Lian H et al. J Neurosci. 2016;36(2):577.
6. Hong S et al. Science. 2016;352(6286):712.
7. Maier M et al. J Neurosci. 2008;28(25):6333.
8. 武洲, 中西博 日本薬理学雑誌. 2017;150(3):141-7.

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